牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第40回

第40回: ポール・マッカートニー『Flowers In The Dirt (Remastered 2017)』

〜来日直前、ハイレゾでようやく手中にできたアルバム〜

 

 

この4月にいよいよポール・マッカートニーが来日する。東京ドームと合わせて、再び日本武道館での公演もある。楽しみにしている方も多いだろう(僕もそうです)。

来日のタイミングとちょうど合ったのが、ポールのアーカイヴ・コレクション第10弾の発売だ。今回は『フラワーズ・イン・ザ・ダート』である。これもハイレゾで配信されている。今やポールのアーカイヴ・コレクションをハイレゾで揃えている人は多いと思う。CDより高音質なのだからハイレゾを選ばない手はない。

『フラワーズ・イン・ザ・ダート』は1989年発表。エルビス・コステロとアルバムの3分の1を共作していることでも有名なアルバムだ。コステロとの緊張感のある作品作りが、ポールに再び輝きを戻した。ポールはこの作品で80年代の不調を脱したと言われている。

しかし、いたって評判がいいにもかかわらず、僕の場合それほど聴いてこなかったのである。すみません、と言うしかない。

LPレコードは持っている。でも何度針を落としてもピンとこなかった。それをジャケットのせいにしたり、80年代という時代のせいにしたり……。「いいアルバムだろう」という感触はあるのに不思議だった。いつしか、今は一生懸命聴かなくてもいい、“聴くべき時”が来たら聴こうと思うことにした。

今回のアーカイヴ・コレクションが『フラワーズ・イン・ザ・ダート』になることは、昨年の夏あたりに分かっていた。ファンはそういう情報を得るのが早いのだ。その時、ついに『フラワーズ・イン・ザ・ダート』を“聴くべき時”が来たと思った。

それからはハイレゾを聴く心づもりでずっと待っていたのである。LPレコードで聴いた印象は捨てる。一からまっさらな心で聴くのである。まるで新録音のアルバムであるかのように。

果たしてハイレゾで聴く『フラワーズ・イン・ザ・ダート』は一発で気に入ったのだった。1曲目の「マイ・ブレイヴ・フェイス」が流れた瞬間からキマリだ。LPでも出来のいいポップスとは思っていたけれど、ハイレゾではなんとキラキラ輝くことか。ちょうど初めてビートルズの「ハロー・グッドバイ」を聴いたようなキラキラ感だ。

ハイレゾはリマスターの効果も手伝って、格段に音が良くなったと思う。力強く、弾力があり、艶やかである。レコードであんなに苦労したのが噓みたいだ。どの曲もすんなりと聴けた。「プット・イット・ゼア」とか「モーター・オブ・ラヴ」とか、いい曲があるなあと今更ながら思う。

『フラワーズ・イン・ザ・ダート』の音楽自体は何も変わっていないと思うけど、音質が変われば、心に流れ込むあり方も変わる。ハイレゾのおかげでようやく『フラワーズ・イン・ザ・ダート』を手中にできた僕である。

こうなると来日に合わせたニューアルバムのようなものだ。この日本公演でも『フラワーズ・イン・ザ・ダート』から何かやってくれないかと期待してしまう。「マイ・ブレイヴ・フェイス」なんか東京ドームや武道館で聴いたら最高だと思うのだが。

 

『Flowers In The Dirt (Remastered 2017)』

FLAC|96.0kHz/24bit

オリジナル版(全13曲)

スペシャルエディション(全22曲)

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト